目的を忘れなければ、後は損益分岐点を見極めるだけだ。
多くの場合、WEBコンテンツの目的は情報を送信することにある。そして、W3Cが勧告する仕様はこれらの情報伝達を環境を超えてより効率的に行うために存在している。標準化とは統一された仕様に従う、すなわち情報の伝達効率を最大限に引き出すための1つの手段だ。簡単に言ってしまえば、「みんなが理解できる決まりを作ろう」それだけのことである。
新しい仕様は常に先を行く物であり、コンテンツをその仕様に準拠させるのはサーバ、UAがその仕様を実装した後でなければいけない。いたずらに先取りすると逆に、今現在の伝達効率を低下させる事になる。いくら新しい仕様がそういっているからと言って90%のシェアを誇るブラウザがクラッシュするような物を作っても、喜ぶ人はあまりいない。
しかし、ここで問題になってくるのは、新しい仕様というのはその分洗練されており、恐ろしく魅力的である、ということだ。CSSでいえば新しいセレクタの導入は作業量を大幅に減少させてくれる。情報の制作効率という面だけをみれば、新しい仕様を使わない手はない。
多くの人がイラつく原因は、ブラウザによって仕様の策定から実装までの期間がマチマチであるところにある。先に実装したブラウザに合わせて新しい仕様のすばらしさを知ってしまった制作者は、もはや古い仕様の非効率的な作業をしたいとは思わない。しかし、情報伝達効率を考える場合、シェアの関係からどうしても古い仕様を使い続ける必要が出てくることもある。ここで、ジレンマが発生する。
こういった場合、最終的に判断の基準になるのは、目的にあった損益分岐点になる。「情報の送信」という目的を達成するために用いることの出来るコストを算出し、そのコストの範囲内で手段、すなわち運用する仕様を決定するばよい。
たとえば、コストが余り掛けられない(時間がない、お金がない)のならば、最新の仕様だけをサポートすることで作業が効率化される。そのかわり、場合によっては一部のブラウザを切り捨てる必要が出てくるだろう。そのブラウザのシェアが(NN4のように)低ければコストパフォーマンスが優れていると判断できる。しかし、もしも(IE6のように)90%を超えるシェアのブラウザだったとすると、コストをケチるあまり、目的が達成されない可能性が出てくる。
目的を第一に考えるのならば、出来る限り様々な仕様に対応する必要がある。もっとも、個人サイトではシェアの大きいブラウザの為に少し古めの仕様をサポートするぐらいが限界だろう。作業効率は若干落ちるが、情報が広く伝播することを考えれば安く付く。これぐらいが個人サイトにおける判断基準になるだろうか。
損益分岐点の設定はあくまで個人の裁量であるので、何が悪い、何が良いというのは一概には言えない(MozillaやOperaを切り捨てたり、物理マークアップを多用するのも勝手だ)。しかし、前提である目的を見失うと根本的に間違えた結論を導きかねないので注意が必要だ。仕様を追い続けることも目的には成り得るが、実験的なサイトでも無い限り、多くの観覧者がWEBに期待するのは情報の獲得それ自体であることを忘れないようにしたい。
2004年5月現在での現実的対応。
現状では、仕様を無視してでも「text/html」で送信すべき。IE6がダウンロードダイアログ出さないようになるまでは我慢。Mozillaを基準に考えるとIE6に対応させるためには冗長なコードが必要になるが、たいした手間でないので適当にハックしてしまおう。
XHTMLの場合、IE6はXML宣言がファイルの最初に付いていると互換モードで表示するためかなりおかしな事になる。余裕があるのならばIE用にCSSを書いてもかまわないが、コストがかかりすぎる場合はXML宣言をあらかじめ削除しておこう。ただし、エンコードはUTF-8かUTF-16にしておくこと。
IE6はセレクタが貧弱なのでMozillaに比べるとかなり無駄なコードを書く必要がある。複雑な見た目を定義している場合は特に大変かも知れない。コスト的に見合わない場合はIE6に対してはCSSを適応しないのも良いだろう。NN4のへの対応と同様に「CSSのせいで読めないよりは素のHTMLをそのままみて貰おう」という考え方だ。ただ、IEユーザーはかなり多いので、少しの手間で何とかなりそうだったらハックして修正すれば視覚的情報の伝達効率も上昇する。
それならそれで仕方がない。現状としてIE6でさえまともに表示されれば困らないWEBコンテンツ制作者はたくさんいる。なにせシェア90%以上だ。大抵の人間がほぼ満足できている状態なので、余裕がないのなら物理マークアップでも良い。
ただし、機械は当然物理マークアップの意味を理解できないので検索エンジン対策といった面では不利になることを忘れてはいけない。また、物理マークアップは情報の再利用が難しいことも覚えておこう。もっとも、大抵のWEBコンテンツ制作者は情報の再利用などしないので気にしなくてもいいかもしれない。
サイト内のページで何度も同じ視覚効果を使う場合は流用ができるCSSはかなり便利だ。最終的なコストの面ではCSSはプラスになることが多いので1度勉強して見ることをお奨めする。